ビジネスのミカタ

鹿国大 卒業生メッセージ ビジネスのミカタ IUK GRADUATION MESSAGE

Vol.06

大学院第21期 2021年大学院福祉社会学研究科博士後期課程修了

医療法人参天会
理事長

新田 博之

「人に始まり人に終わる仕事。だから人材育成に注力」

1998年に医療法人参天会の理事に、2017年には関連する社会福祉法人喜入会の理事に就任。そして、2019年に医療法人参天会の理事長に就任し、現在に至っています。主に介護事業の業務改善に携わってきました。生活の質に関連する睡眠状態をKGI(重要目標達成指標)としてKPI(重要業績評価指標)ツリーを構築し、優先順位の低い周辺業務をアウトソースしました。機械化及びシステム化する業務と専門性を深堀りする業務を選別することで介護福祉士の役割を再認識し、排泄介助・睡眠時呼吸障害の把握・遠隔での見守り支援・介護予防について、専門性を補完できる業務フローを構築しました。それぞれの介護士が進むべき専門性を選択し、より高度な役割が担える環境整備に尽力しました。

介護事業は、介護福祉士をはじめ複数の専門職が連携し業務を担いますが、専門性は役割の違いとなり、介護の周辺業務の連携を難しくすることがあります。そこで、業務仕分けを目的に行動観察を行い、業務フローを把握し、制度に則った均衡を計画。その過程で明らかになったのは、介護士の仕事は介護の周辺業務が多くを占め、その実施に多くの時間を費やしていることでした。

一方で、介護士は共感性が高く、穏やかな性格の人が多いことから、問題を抱え込み離職に繋がることが散見されました。改善には制度の知見が問われ、その習得と社会福祉士の取得を目的に鹿児島国際大学に社会人入学しました。在学中、実務経験のある教授に業務に関するご教示を頂きながら改善を進め、機械工学の知見を活かして機械化・システム化を推進。その後、介護士不足が深刻化し、日本国籍を有する外国人に起業してもらい介護の周辺業務を外注化するなど、協力業者制度を構築し、介護士から周辺業務を減らすことに成功しました。介護の周辺業務を減らしたことで、認知症ケアを介護福祉士が担うべき専門性とし、生活の質的評価に睡眠状態を採用し、科学的な介護に挑戦できる環境を整えました。

他方、私が医療福祉事業を営むエリア人口は1万人ほどと少なく、人口が減少し続ける地元の姿と、識者の地方消滅論に危機感を抱き、修士課程で日本版CCRC(継続的ケア付き高齢者コミュニティ)と地方の役割を研究し、地域包括ケアシステムと日本版CCRC構想を一体的に機能させることで東京圏の高齢化危機への対応と地方創生の解決手段になり得ることを示しました。修了後に「鹿児島市生涯活躍のまち形成事業」の指定を受け、都市部からの移住事業を手掛けました。その中で、高齢者が元気になっている事実を知り、健康な暮らしを維持する取り組みが、地方が発展する要素であると確信し、博士課程において、在宅生活の延伸に寄与する効率的な介護予防プログラムを研究しました。博士論文で、有酸素トレーニングと吸気筋トレーニングは、呼吸を含む全身の身体活動量を増加させ、日中の自覚的眠気の改善と転倒予防に繫がることを明らかにしました。現在は、得られたデータから身体的能力の改善を予測するプログラムを導き出し、アフターコロナにおけるデイケア・デイサービスで行う機能訓練、医療機関で提供する外来リハビリテーション、比較的元気な中高年齢者を対象にしたメディカルフィットネスへの展開を検討しています。

同時に介護事業の改革も進めています。排泄に関する研究をパラマウントベッド(株)と取り組み、効果的な排泄時期を把握しました。そのうえで、移動式水洗トイレ等を活かした業務改善で効率的な排泄介助を実装し、非装着型シート型体振動計にリモート機能を加えることで、在宅での睡眠・心拍・呼吸状態を見守り支援に活用する手法を探っています。さらに、日本電気(株)と転倒予防に関する共同研究を行い、在宅生活を延伸する可能性を検討しています。

人材育成も注力し、年3回開催する介護福祉士実務者研修により、社内外で50人を超える介護人材の育成に寄与しています。対人援助職は、人に始まり人に終わる仕事。当社のような零細企業は、職員の隠れた才能を見出し、発揮する為の投資をし続けないと生き残れません。効率が上がる仕組みと、業務に関わる真面目な雑談が気兼ねなくできる、笑顔が溢れる職場環境が重要になります。

今後、医療介護業界の競争激化は避けられません。しかし、専門性を絞ることで準市場の限界を高められると考えますので、異業種との業務連携が求められると思います。科学的な支援が求められる今日、介護事業であっても技術革新による効率化は必須でしょう。ニーズは俯瞰して捉え、利用者の「やってもらいたいこと」と、介護福祉士の「やりたいこと」をマッチングさせることが重要になります。マッチングし難い業務は圧縮し、「やってもらいたいこと」と「やりたいこと」を増やし、支援全体ではご利用者と介護福祉士のどちらも魅力を感じるバランスの良い職業に再構築する必要があります。コロナ禍においても、今後も引き続き介護福祉士不足は想定され、職業間競争に晒され続けることから、職業としての魅力の磨き込みと適する人財を絞り込んだリクルート戦略及び教育システムの構築が重要になると考えています。

後輩へメッセージ

在学中は、介護事業や医療機関の経験を有する教授から数々の解決手法をご教示頂き、学びながら業務改善を行うことができました。制度に深い知見を有する教授からご指導いただき社会福祉士を取得することができました。
修士課程において、解析の知見を有する教授から解析の魅力を学び、得られた結果を活かして都市から地方への移住事業を手掛けました。博士課程で得られたデータからヘルスケア事業に活かせる予測モデルを構築し、アフターコロナにおける展開を計画しています。全ての学びが事業に繋がったことに深く感謝しています。
私は、その時に出来る事に最善を尽くしています。その瞬間の積み上げが実績になり、近い将来の可能性を示す指標になります。人は想像力を働かせようとしても、自分の知識や経験を超えた判断が出来ないことを悟り、多くの情報に直接触れることをお薦めします。その中で、やるべき事が見えてくると思います。誰でも簡単に素早く情報にアクセスできる環境下では、自分の知識や経験の質と量が情報格差に繫がることを念頭においてください。
また、仕事は概ね大変なものですが、与えられると辛く感じ、創り出すと楽しく、結果も得やすくなります。大切な事は、情熱を燃やせると感じる環境を選ぶことです。一般的には、就職で選べるのは会社だけであって上司を選ぶことはできません。一方、会社は、社会人として生き抜くビジネススキルにあわせて人間力を学ぶ場でもあり、左右するのが直属の上司です。これらを垣間見ることができるのが企業風土です。新卒というブランドを棄損させない為には、インターンシップ等を活用し、より多くの企業を見ることをお薦めします。企業規模以外にも大切な何かを見出せるかもしれません。

座右の銘・処世訓など

「情熱・熱意・執念」です。特に、止める判断は経営者が担うべき責務です。最後は責任を担う覚悟が必要です。

愛読書・推薦書など

毎月数多く出版される新刊書の中から、注目される本を4ページにまとめてある「TOPPOINT」をお薦めします。自己啓発はもとよりトレンドの把握、経営に関する課題解決の一助になります。また、マネジメントに関する本を好んで読みます。例えば「戦略的志向をどう実践するか」等です。