今年度のプロジェクト

令和5年度は、「経済・文化からみた酒と鹿児島」をテーマに、6名の所員による共同研究を行います。各所員が以下のサブテーマに関する研究を行い、提言を行っていきます。

プロジェクト代表 大西 智和
プロジェクトメンバー 大西 智和、池田 亮一、平出 宜勝、福田 正彦、脇 正一、武藤 那賀子

 

鹿児島における焼酎の歴史と酒を活かした地域活性化の創出に関する研究

国際文化学部 教授
大西 智和
研究目的

鹿児島における「焼酎」の文字は、伊佐市郡山八幡神社本殿の落書きに記されたもので、その年代は1559年にまでさかのぼる。日本酒については米作りの開始とセットで捉えられることから、なお古くから作り始められたはずであり、鹿児島における酒造りの歴史は長いといえる。研究を進めるにあたって、長い歴史を有する鹿児島における酒の歴史を、考古学的な手法を中心に、必要に応じて文献史、民俗学的な手法も援用して、把握することから開始する。まずは本土における焼酎造りの歴史から始めたい。さらには、黒糖焼酎の歴史にまで広げるつもりである。 
次に、酒の歴史や酒に関わる文化に注目した、地域活性化や観光に関する、文献や施設を調査し、その取り組みを詳細に把握し整理する。これらの情報を基に、酒の歴史・酒に関わる文化を活かした地域活性化や、さらに一定エリアの歴史・文化・生業・未来への取り組みなどをナラティブとし、それを実践する史跡や文化財、諸施設から構成される着地型観光プランの提案を行いたい。
あわせて、鹿児島の酒のブランド化を目指す研究および試みを、共同研究という形で取り組みたい。

産業連関表を用いた製酒、飲食業の分析

経済学部 准教授
池田 亮一
研究目的

鹿児島県の基幹産業とされる観光業に密着した飲食業、製酒業の分析を行う。地域総合研究所からいただいた予算を用いて、鹿児島市の産業連関表(地域循環データ)を用いた分析を行っているところであるが、部門数が40部門程度と粗く、さらに精度の高い産業連関表の作成が要請される。
そこで、鹿児島市、できれば奄美市の産業連関表を自ら作成しようと考える。鹿児島市産業連関表は、大久保・石塚(2009)の研究があるが、産業連関表自体は公表されていない。作成方法は公表されているので、新たに作成することも面白い。
なお、現在「枕崎市」の産業連関表を作成中、ほぼ完成(最終チェックが残るのみ)であるので、それをもってこのプロジェクトに替えるかもしれない。また、アンケート(インターネット)は昨年実施したが、今年度も実施予定。

観光と輸出の相互作用についての計量経済分析

経済学部 講師
平出 宜勝
【研究目的】

昨年度の研究では全国および鹿児島市の酒類需要分析を行い、焼酎をはじめとした酒類の需要構造について調査を行った。またフィールドワークを通じ、焼酎の輸出を拡大するためには海外での認知度を上げることが必要であること、輸出拡大に向けて鹿児島県でも様々な取り組みが始まっていることが分かった。今年度からは、コロナ禍が本格的に解消に向かうと考えられ、日本全体および鹿児島県にも多くのインバウンド観光客が訪れることが期待されている。日本各地や鹿児島県を訪れた観光客がその土地の食文化を体験し、帰国後に友人・知人たちに情報を共有したり、訪れた土地の商品を消費したりすることにより、新たな海外需要が生まれることが予想される。さらに日本各地や鹿児島県の特産物が海外に輸出されることによりその地域の認知度が向上し、その土地への観光需要が新たに生まれることも考えられる。そこで本年度の研究では、日本および鹿児島県での観光が焼酎をはじめとした酒類の輸出にどのように影響するか、また日本および鹿児島県からの酒類の輸出が日本および鹿児島県への観光需要にどのように影響するかを分析する。この研究により、観光客数と酒類輸出量との間の因果関係を把握することができる。また短期的・長期的な観光による輸出への効果および輸出による観光への効果を分析することができる。

焼酎のブランド戦略、焼酎のツーリズム

経済学部 特任准教授
福田 正彦
研究目的

全体の研究目的は、「酒と鹿児島」の新たな関係性を見出しあるいは提唱し、さらに地域の活性化に役立てることを目指すことである。昨年度、小職は、次の観点からこれに取り組んだ。
1)ツーリズムとの一体化
2)ブランド
昨年度の進捗は次のとおり。
焼酎の輸出が過去11年間にわずか10%しか伸びていない。一方清酒はこの間約5倍に伸びた。焼酎の輸出不振の原因は、文献や焼酎の蔵元の話から2つの原因が主に上げられる。
① 焼酎の知名度が海外で低いこと。②日本での焼酎の食中酒としての飲み方が海外でうまく受け入れられないこと。
この状況を打破するためには、①の知名度の向上、さらに'shouchu'のイメージの向上、すなわちブランドとしての浸透を海外で目指す必要がある。これを広告宣伝などで行うとすれば莫大は金額が必要となり、現実的でない。そこで、日本に来るインバウンドの観光旅行客に焼酎を体験してもらい、知名度および良いイメージをおぼえてもらうため、鹿児島市にshouchu博物館の設置を提唱した。
今年度はさらにこれを進化させていきたい。

焼酎文化を活用した学校教育に関する研究-「社会に開かれた教育課程」の調査事例を中心に-

福祉社会学部 特任准教授
脇 正一
研究目的

鹿児島県の代表的な特産品である焼酎は、蔵元が100以上存在し全県的に分布している。これらの蔵元では、歴史的に地域と深く関わってきたことから、本県独自の「焼酎文化」を形成している。一方、本県の学校教育に目を向けると、小・中学校合わせて700校以上が県内に点在し、各地域の特性を生かした教育を展開してきた。一見「焼酎文化」と「学校教育」は無縁なように見えるが、県下では焼酎文化を活用した魅力的な教育活動を展開している小・中学校が存在する。
本研究では、焼酎文化を形成する農業、伝統的な製造方法、販売、地域との関わり等、様々な要素と学校教育との関係に焦点を当てて調査・研究を進め、学校教育における「焼酎文化」の活用の在り方を見出し、新学習指導要領に示された「社会に開かれた教育課程」の編成に役立てるとともに、学校教育を通して地域の活性化につなげることを目指す。    

薩摩の酒文化――焼酎の歴史と文化との関わり

国際文化学部 准教授
武藤 那賀子
研究目的

若者のアルコール離れ、若者の車離れが言われるようになって久しい。とくに首都圏の若者は運転免許も持っていないことが珍しくない。そもそも、飲酒をした場合、運転はできない。こういった背景がある一方で、酒造はアクセスの良くないところにあることが多い。車文化である鹿児島において、いかに車を使用せずに酒造巡りを一般化するのかというのが課題としてあろう。
また、鹿児島には110ほどの酒造があり、1500種ほどの焼酎があるとされているが、よほど詳しくない限り、どれも同じに見えてしまうという問題がある。さらに、「焼酎は鹿児島の文化」であるとされるわりにその歴史を詳細に記したものはほぼない。
これらの問題を解決するべく、以下の改善点を提唱する。
1.公共交通機関を使用して行ける酒造蔵の日帰りモデルコース作成(学生導入)
2.「文化」という言葉の定義の再確認と焼酎の位置づけ
3.焼酎の文化の再確認(大西先生・福田先生と共同)