第1期(平成29~30年度)清水基金プロジェクト研究に係る事業報告書

研究者 所属 研究テーマ
高橋信行 福祉社会学部社会福祉学科教授 集団の一般理論(清水理論)による現代コミュニティ分析
過疎・離島の地域振興と地域福祉―CCRCの可能性を中心として
武田篤志 経済学部経営学科准教授 鹿児島における場所活性化デザイン研究
馬頭忠治 経済学部経営学科教授 地域と学校の新しい関係づくり
岡田洋一
一般社団法人
鹿児島県精神保健福祉士協会
福祉社会学部社会福祉学科教授
一般社団法人鹿児島県精神保健福祉士協会
鹿児島県における医療保護入院者生活環境相談員の現状と課題 
~精神保健福祉士、他職種、当事者、地域からの視点より~
竹安栄子 京都女子大学特命副学長
地域連携研究センター長
中国社会に関する研究
地域文化と地域振興に関する実証研究

研究者高橋 信行 教授 [福祉社会学部社会福祉学科]

研究テーマ集団の一般理論(清水理論)による現代コミュニティ分析

研究の目的 清水盛光の「集団の一般理論」は、コミュニティ論ときわめて近接している領域に位置し、小集団のみならず、全体社会論をその視野に含む。ここではこのフレームを使って現代コミュニティを分析する。
実施計画 (4月から7月)集団の一般理論の文献の分析研究、(8月から11月)京都に残された清水の遺品等から理論に関係した資料を探索、また集団の一般理論のフレームを使って、獅子島もしくは奄美群島を分析する(12月から3月)。
事業報告(概要) 清水盛光の研究のうち、中国家族研究において、例えば福武直(社会学)との論争があった部分を確認、また地理学内でも清水盛光理論が影響を与えている点が確認できた。この点地理学研究者に第2期プロジェクトに加わっていただけたことは成果の一つといえる。一方、清水の集団論をコミュニティ研究に応用する部分については、理論的なフレームの検討は行えたものの十分な実証研究を行うことができなかった。ただ獅子島での実証研究は、集団論というより、地域包括ケアのあり方として議論展開はできそうであった。

研究テーマ過疎・離島の地域振興と地域福祉―CCRCの可能性を中心として

研究の目的 日本版CCRCの構想は、地域振興と地域福祉の関係を考える上で、興味深いテーマである。地方都市の立場になれば、人口減少により生活インフラの脆弱化が懸念され、一定の人口確保はこれまた喫緊の課題である。地域振興を優先し、社会福祉を軽んじれば、安心した住民の生活は担保できない。そうした意味で日本版CCRCは、興味深い施策であるが、地域振興の側にも福祉の側にも、まだまだ十分な理解とアイデアが不足している。離島や過疎地のCCRC施策をフィールドワークの手法で分析する。
実施計画 これまでのヒアリング等の結果を分析する(8月から11月)。離島版CCRCを含め、CCRCを実践している自治体の追加訪問を行う(12月から3月)。ヒアリングのまとめ、及び地域包括ケア等との関連を検討し、最終研究報告書を作成する。
事業報告(概要) CCRCについては、徳之島伊仙町の「離島版CCRC-生涯活躍の町」の全容について、シンポジウムを通して明らかにした。この点は、これまで徳之島で行ってきた住民参加型の福祉計画策定過程を振り返りながらまとめることができた。地域包括ケアのあり方についても伊仙町の実践で確認をし、また獅子島での小規模多機能施設を中心とした活動に関わるなかで新たな検討を行ったが、施設閉鎖という事態に見舞われ、引き続き、この問題の検討を余儀なくされた。

研究者武田 篤志 准教授 [経済学部経営学科]

研究テーマ鹿児島における場所活性化デザイン研究

研究の目的 全国的にも人口減少・過疎化が深刻化している鹿児島県にあって、高度経済成長期にモデルとなっていたサービス/社会経済に代わる新たな地域づくりの理論が求められている。そこで本研究では、ホスピタリティ/場所経済という観点から地域コミュニティ・社会・経済を総体的に見直し、県内の具体的な場所の歴史・文化・環境に根ざした地域活性化の可能性を探る。とくに大隅半島地域をフィールドに、その活性化のモデル構築にまでこぎつけたい。
実施計画 従来、社会学(地域社会学)が前提としてきた、地域、社会、コミュニティといった概念を反省的・批判的に見直し、移動性・時間性・パブリック圏をキーワードに設定しつつ、鹿児島県内のいくつかの場所、特に鹿児島市、谷山地区と大隅半島地域(鹿屋市、南大隅町、志布志市などを予定)をフィールドとしながら、産業社会化/サービス空間化されて衰微している場所をいかに再生/デザインしうるかについて理論・実証両面から考察する。特に場所の文化・歴史を取り上げるにあたり、伝統の祭りや習俗に着目しつつも、その精神性や幻想構造に係る理論からのアプローチを試みたい。
事業報告(概要) 本年度は、前年度と同様に鹿児島市の谷山地区および南大隅町を主なフィールドとして活動を行った。鹿児島市の谷山地区では、公益社団法人鹿児島法人会谷山支部主催の研修会で「谷山地区の将来ビジョンについて考える」と題して講演を行い、人口が増加する一方で地域コミュニティの衰退が進む谷山地区での新たな場所づくりのビジョンについて論じた(2018年8月3日)。また、平成30年度谷山ふるさと祭第1回実行委員会にて「谷山ふるさと祭のこれまでとこれから」と題して基調講演を行い、地域コミュニティの変容に伴う住民参加イベントの衰退にいかに対処するかについて提言した(2018年4月27日)。さらに、「第39回谷山ふるさと祭」に実際に参加し取材も実施した(2018年10月28日)。
南大隅町では、本学地域総合研究所と南大隅町社会福祉協議会共催の「南大隅町地域福祉フォーラム」で「南大隅町との連携活動について」と題して活動報告を行った(2018年6月18日)。また、南大隅町の場所文化をリサーチするため、根占地区の伝統行事「おぎおんさあ」(2018年7月28日)および佐多地区の伝統行事「御崎祭り」(2019年2月16-17日)にそれぞれ参加し取材を実施した。とくに佐多地区では、佐多郡新生会主催の御崎祭り学習会に招待していただき、「御崎祭りのこれからについて考える~神話の神と場所の神の視点から~」と題して講演を行い、佐多の伝統文化・精神性に根差した場所づくりの方向性について提言した(2019年1月13日)。
さらに、前年に引き続き、地域活性化の先進事例として岩手県紫波町の複合施設「オガール」を訪問し、公民連携手法(PPP:Public Private Partnership)による運営の現状を取材した(2019年3月11-12日)。

研究者馬頭 忠治 教授 [経済学部経営学科]

研究テーマ地域と学校の新しい関係づくり

研究の目的 昨年度の研究テーマは、地域と高校の新しい関係づくりによる地域活性化であった。主に、高校生のための地域での第三の居場所づくり(町営の塾、合宿所など)の現状把握と高校生が地元の歴史文化を掘り起し、それを自らの力で、もちろんその社会の協力を得て演劇やミュージカルにする取り組みを調査した。本年度は、こうした新しい地域事業づくりや学校づくりの現代的な展開を探るべく、タヒチのグリーン・スクールや開発国カンボジアでの学校づくりなど海外にも目を向けていく。また、廃校が地域に及ぼす影響について、また、廃校利用の現状についても調査する。
実施計画 4月からは廃校による地域の変容を調査できるように下準備をする。まず、県内の様子を知ることからはじめ、廃校利用の現状をも調査していく。さらに、夏休みを利用して、海外の新しい学校づくりと地域の関係について現地調査をする。その後、昨年からの歴史文化づくりと高校生などによるミュージカルづくりによる地域づくりについて補完的に調査をする。2月には、2年間の調査にもとづいて、「地域と学校の新しい関係」についての論文を作成することを目標としたい。
事業報告(概要) 本年度の研究テーマは、新しい地域事業づくりと学校づくりの現実的な展開を明らかにすることであった。結論から述べると、①学校づくりで念頭においていた廃校の問題については、文献を中心として資料収集に終わった。ただ、曽於市の「森の学校」や南九州市の「リバーバンク森の学校」は廃校した小学校を活用した取組みであるが、これらの取組みについては、新聞記事やスタッフからヒアリングはできた。もう少し時間はかかるが、調査を重ね、報告できるようにしていきたい。②地域事業づくりについては、アートを通じたコミュニティ・リノベーションに関心を持ち、宮崎県や沖縄県で行われたイベントなどを中心に調査し、また、台湾でも訪問調査し、その成果を論文にまとめた(「台湾のコミュニティ・リノベーションとアートマネジメント」『地域総合研究』第46巻第1号)。③アジアでの取組みとして他にグリーン・スクールや小学校づくりに興味をもって情報を収集したが、タイのタイマッサージが寺院による貧困者の仕事づくりからはじまった歴史的な取り組みであることを知り、もう少し、コミュニティ事業について体系だって研究すべきことを学んだ。④さらに学校という制度が抜本的に変わりつつあることを、スペインのモンドラゴン大学のteam academyを訪問してはじめてしった。ここでは、1年生から、自ら出資し、チームをつくり、事業化して、4年生までそれを会社や協同組合に成長させる教育をし、指導も教員ではなくアントレナーが担当し、彼らも自ら実際に事業を手掛けている。また、フィンランドのユヴァスキラ大学など世界の先進地にラーニングジャーニーをして、その協力者を見つけるというインターナショナルな授業に学生は参画する。このように、大学を含め学校自体が大きく変わっている現実を受けとめ、再度、学校づくりを見直さなければ、コミュニティの再生は在り得ないことを知った。以上、今後さらなる調査をして報告できるようにしていきたい。⑤現代社会が制度疲労を起こし、その再編成が不可避となっているが、問題は、制度がつくってきた境界をいかに編集するかによる。地域をアートの力でソーシャルにデザインすることで、学校と地域との関係、福祉と地域の関係をよりオープンにして、さまざまな関わり合いと新しい価値を創出することが可能となる。この可能性を障害者のさまざまな取組みや高校の取組みから学べたことが、ある意味、最大の成果だと考えている。

研究者岡田 洋一教授 [福祉社会学部社会福祉学科]
          一般社団法人鹿児島県精神保健福祉士協会

研究テーマ鹿児島県における医療保護入院者生活環境相談員の現状と課題 ~精神保健福祉士、他職種、当事者、地域からの視点より~

研究の目的 現在、精神科病院に係る退院支援においては、医療的な側面や社会的な側面のみに目を向けず、Bio-Psycho-Socialがトータルな形でコーディネーションされた支援が必要となっている。その要として国は、2013(平成25)年改正において精神保健福祉士を中心とした国家資格を持つ職種を「退院後生活環境相談員」として設置することを決めた。これらの現状の中で、Bio-Psycho-Socialの重なりがトータルに提供されるためには、チームアプローチが必須となる。そして、地域との協働が必要となる。  この時、このような背景の中で、鹿児島県においてこの退院後生活環境相談員がどのように機能しているかという実情と、退院後生活環境相談員の働きがどのように退院支援と結びついているか、さらには、退院後の地域定着とどのような相関がみられるのかを知ることで、鹿児島県の精神保健医療福祉の現状と課題を明らかにする。
実施計画 退院後生活環境相談として働く精神保健福祉士、チームアプローチを共にする他職種、支援を受ける当事者、協働する地域へ焦点を当て、研究を進める。  まずは先行研究として、退院後生活環境相談員に係る文献やBio-Psycho-Socialの連関に関する文献、それらを支える理論的背景となる様々なソーシャルワーク理論に関する文献を収集し、文献研究を行う。  次に、それらの研究で明らかになった課題や現状を元にした精神保健福祉士への量的調査を基とした基礎研究を行い、退院後生活環境相談員の鹿児島県における現状を明らかにする。  そして、本研究として、それらの結果から導き出された課題について、退院後生活環境相談員として働く精神保健福祉士、他職種として関わるいくつかの職能者、支援を受けた当事者、地域の支援者などにインタビュー調査を行い、KJ法を基にした質的分析法で分析を行い課題における今後の示唆を導き出す。
事業報告(概要) 主任研究担当者である岡田研究担当者と鹿児島県精神保健福祉士協会担当者である中條研究協力者を中心に、調査研究に必要な調査票等の作成を進め、その根拠としての退院後生活環境相談員の文献研究を行った。特に文献研究については、退院後生活環境相談員という制度そのものの実施に係る日が浅く、文献数としては少ないながらも、現状に係る我が国の中でうかがえる課題が明らかとなった。 文献研究によって明らかになっていく課題について整理を行い、文献研究と並行して郵送調査に必要な調査票の作成を行い、それに伴って調査研究全体の枠組みを整理していった。 結果、文献研究による課題の検討、それに伴う郵送調査(量的研究)、その結果に基づくインタビュー調査(質的研究)の3本を柱とした複合的な研究方法により鹿児島県の中で稼働する退院後生活環境相談員のもつ現場感覚に沿った課題と今後の方策、現場のソーシャルワーカーの想いを形にするような研究を行うこととなり、鹿児島県精神保健福祉士協会の理事会へ報告を行った。 その後、3月に本学の教育倫理審査委員会へ調査に係る倫理審査を申請し、現在審査中である。年度内の研究成果の発表はかなわなかったが、7月の地域総合研究所紀要、および清水基金プロジェクト全体の成果報告に向けて、7月初旬を目途に調査研究を終えるため、倫理審査の結果を待って早急な対応を行う準備を進めている。

分担研究者竹安栄子 教授[京都女子大学特命副学長・地域連携研究センター長]

研究テーマ中国社会に関する研究 地域文化と地域振興に関する実証研究

研究の目的 ④中国社会に関する研究 清水研究の集大成ともいえる集団理論は、氏の中国社会に関する精緻な文献研究がその基盤をなしている。氏は、中国伝統的社会の根本構造をその親族組織にあるとの考えから、知中国の家族・親族(宗族)に関する優れた研究成果を残している。平成30年度の研究では、改革開放後、再び顕在化するようになった現代中国の親族組織を理解するために、氏の宗族研究を主に文献研究を中心に展開することを目的としている。 ⑤地域文化と地域振興に関する実証研究 地域文化の再発見と活用による地域振興の実践的モデルの開発が本研究の目的である。平成30年度は次の2つの研究を計画している。 (1)地域社会の意思決定領域における女性の現状:昨年度に引き続き、鳥取県を対象として、戦後からの女性の社会参加の実態を明らかにする。戦後から1960年代にかけて活発化した地域婦人会を中心とする女性の社会活動が、その後低迷するに至った要因を明らかにしたい。 (2)日本酒と食の文化を資源とした観光産業の展開:今年度の研究では、Community Based Tourismを定着するには何が阻害要因となっているかを明らかにしたい。
実施計画 ④中国社会に関する研究 中国での実態調査の実施が困難な状況であるので、平成30年度は文献研究を中心に実施する。しかし中国社会の情勢が変化し、現地調査の可能性が出た場合には現地での聞き取り調査を遂行したい。 ⑤地域文化と地域振興に関する実証研究 (1)地域社会の意思決定領域における女性の現状:昨年度に引き続き、鳥取県での資料収集と、昨年度発掘した鳥取県内の女性地方議員の政治活動記録の整理を行う。 (2)日本酒と食の文化を資源とした観光産業の展開:1.欧米型・滞在型ツーリズムに関する文献研究。主にスコットランドを対象に、tourismの展開が市民社会の形成を背景にしていることを明らかにする。2.ツーリズム先進地域における市民レベルの観光業の実態調査。3.日本では、Community Based Tourismの概念が正確に理解されないまま事例研究だけが先行している状況にある。そこで文献研究と実地調査を実施し、Community Based Tourismの日本への導入の課題を明らかにする。
事業報告(概要) 清水盛光氏の中国の家族・親族(宗族)および社に関する研究成果の結実である、氏の著書『家族』(岩波書店)と、長年の親族研究と地域社会研究の研究成果に基づいて理論家を試みた『集団の一般理論』(岩波書店)を再検討した。特に氏の共同体志向概念を検討することにより、「家」概念の分析枠組みの構築に努めた。平成31年度には、この枠組みを用いて、家概念の比較研究を実施する予定である。

研究テーマ地域社会と地域振興に関する実証研究

実施計画 地域社会の意思決定領域における女性の現状
昨年度に引き続き、鳥取県での資料収集と、昨年度発掘した鳥取県内の女性地方議員の政治活動記録の整理を行う。
日本酒と食の文化を資源とした観光産業の展開
(ⅰ)欧米型・滞在型ツーリズムに関する文献研究。主にスコットランドを対象に、tourismの展開が市民社会の形成を背景にしていることを明らかにする。 (ⅱ)ツーリズム先進地域における市民レベルの観光業の実態調査。 (ⅲ)日本では、Community Based Tourismの概念が正確に理解されないまま事例研究だけが先行している状況にある。そこで、文献研究と実地調査を実施し、Community Based Tourismの日本への導入の課題を明らかにする。
事業報告(概要) ①地域社会の意思決定領域における女性の現状
鳥取県を対象として、戦後からの女性の社会参加の実態を明らかにするため、資料の発掘・収集、および女性議員経験者を対象としたインタビュー調査を実施した。今年度は、女性参政権獲得後すぐに実施された衆議院選挙で初の女性代議士となった田中たつに関して成果を発表した。
日本酒と食の文化を資源とした観光産業の展開
欧米型・滞在型ツーリズムに関する文献研究では、スコットランドを対象に、市民社会の形成を背景にtourismが展開したことを考察した。日本における実態調査は実施できなかったが、それに代えて京都市東山区をフィールドとして、市民生活と観光産業の進展に関する実証研究に着手し、次年度の研究の展開に繋げた。これらの成果は、竹安が主宰する地域社会研究会で討論し知見を深めることができた。海外調査としては、平成30年度はスコットランドのハイランド地域からオークニー諸島のtourismの現況を調査した。各地で展開されているCommunity Based Tourismが女性によって担われている実態についての認識を深めることができた。日本酒文化を資源として活用した事例調査としては境港町の千代むすびを対象として、地域と一体となった観光振興の可能性の検討と、平成28年度に実施した兵庫県神姫バス「酒蔵巡り」の参加者を対象としたアンケート調査結果の整理を実施した。
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