特別公開授業
名講義に宿る思索と戦略
本学の学生は、出席した科目の「学期末授業アンケート(A)」(5段階評点による授業評価)と「学期末授業アンケート(B )」(文章による授業評価)を提出します。いずれも科目の授業改善に役立てることを目的に、教育開発センターが実施しています。
「アンケート(A)」で高得点の講義を各学部から1科目(5科目中)選び、それを教員・職員・学生に公開する。これが特別公開授業です。
今年第1回の特別公開授業は、福祉社会学部現代社会学科・井手口先生の「社会学Ⅰ」でした。わたくしも聴講しました。ちなみに第2、3回はこの秋、経済学部・中村隆之先生、国際文化学部・小林潤司先生の授業が公開されます。
井手口先生のその日の授業は「現代消費考」。J・K・ガルブレイスの消費社会観を批判したボードリヤール『消費社会の神話と構造』を軸にした講義です。
ガルブレイスは1950年代のアメリカ産業社会を観察し、消費行動は自然的欲求から内発するのではなく、企業広告に依存して不自然に喚起されている現状を、「ゆたかな社会」の特徴として警鐘を鳴らしました。当時、消費における「依存効果」として注目されたコンセプト(概念)です。
自然な欲求と広告の「依存効果」による人為的欲求との間に、境界線を引けるか? 現代の消費は自然の欲求を充足させる行為というより、ファッションに見られるように、人々が互いに「差異化」を楽しみ競う営みではないか。ボードリヤールの主張です。
こうして商品は、モノとしての「機能」(自然の欲求が求めるもの)だけでなく、(広告が創り出す)「差異」を表示する「記号」としての要素を持ち、その記号性を現代消費はエンジョイしている。例えばひざ上にワザと裂き目をいれた高価なトーン・ジーンズ、クオーツではなく誤差の大きいゼンマイ駆動の高級時計などなど。
大澤真幸氏の論文(講義資料として配布)の関係箇所を、学生のひとり、ひとりを無作為に選んで、音読してもらいながら、講義は続きます。
教室を散策しながらあるいは空いている机上に腰を下ろして、教えを説く。ことばは朗々にして明解。ときに江戸ことば・上方ことばの音階が作る緊張と弛緩。つじつじを回って教えを説く、若くて優れた伝道師のように思えました。
学生たちはその教えに魅入られたように、耳を傾けているのです。講義に先行する十分な思索と戦略がなければ、この名調子の講義はできない。自分がすでに知っていることを安易に述べるのではない。自分の経験を振り返り、そう思いました。
