高度な技術、知の取引、県境
金型工場の計画
6月中旬の南日本新聞で、「日本精機菱刈進出へ―車エンジン金型製造・3、4年内に工場建設」という見出しの記事を読みました。進出するのはシリンダーブロックやトランスミッションなど、自動車エンジンに関係する金型を、トヨタ自動車グループ、日産自動車、本田技研工業、韓国の現代自動車に供給している会社です。
精密な技能を求められる金型技術者を、鹿児島県出身者を対象に現在養成中で、その養成が終わる3、4年後に工場建設を計画していると伝えています。紙幅は小さいとはいえ、近年にないワクワクするニュースでした。
わたくしたちの生活は膨大な工業製品に取り囲まれています。携帯電話も自動車もその一つです。それらの工業製品は、自動車の場合(分類によって数字は異なりますが)約1万個の部品(パーツ)を組み立てたものです。不可欠なその部品はどこで・どうして作られているのでしょうか。特定の部品を専門に製造する企業(自動車部品サプライヤー)が、トヨタ、日産、ホンダなど自動車組み立て企業の注文に応じて生産し、供給しています。
ところでその専門企業が同一規格の精度の高い部品を一定量作るのに、金型と呼ばれる「生産手段」が不可欠です(一定の形を保った「鯛焼き」をプレスして作る道具のことを考えてみてください)。その金型は特定の金型を生産する企業から供給されます。
金型産業はこうして現代工業したがって現代生活を支える、文字通り「縁の下の力持ち」です。日本の企業とその製品が世界に進出する際、金型の精密さは依然として重要な力です。また金型そのものが海外の企業から注文を受けています。
記事によれば菱刈に進出する工場は十数人ほどの規模です。金型産業には少人数の金型技能工・熟練工(CAD/CAMなどIT機器を使える技能者)で生産を行う工場が多いのです。その金型技術者の養成を待って、菱刈への進出が行われます。
ワクワクするニュースだといいました。その理由は、現代工業の基盤となる高度な技能・技術を持った工場が進出することです。単純な加工・組み立てを行う工場やショッピング・センターなどの進出と異なり、そこを拠点とする取引あるいは技術知識の地道な展開が可能になる。そういう種子がまかれたと期待することができます。
さらにこの進出先が県境の菱刈地区であることも、重要な意味を持ちます。現代工業を支える工場が「県都」ではなく県境に生まれることになります。地域を考えるときの大きなヒントになるかもしれません。
