都市生活を断った夢と志
地域に降り立った青年
鹿屋市輝北町は大隈半島の北西部(鹿児島県の東部)にあり、畜産を主とする農業の町です。地域の努力で活気を保っている町ですが、それでも第二種兼業を含む総農家戸数、(自営農業に従事する)農業就業人口はこの40年ぐらいの間に、それぞれ45%、75%近く減少しています。小学校は複式50人規模です。
町は農業を振興するため農業公社をつくり、スプレー菊を栽培する農業者を育てる、それも県外から青年を募って育てるというプロジェクトを2000年に始めました。注目を浴びているのはこの点です。
長年農村研究に携わってこられた中野哲二先生(本学名誉教授)の調査に同行させていただきました。わたくしの他に地域創生学科の唐、大久保、富澤の3先生と経済学科の菊地先生も一緒です。
プロジェクトは①研修生当り月額15万円(扶養家族がある場合20万円)の研修手当てを支援し、1人当りハウス5棟(合計面積10㌃)の研修圃場で2年間スプレー菊栽培の実地研修②研修後同じ面積の借地を提供して、農業後継者として自立する―という内容です。
プロジェクトの内容、それを支える地域の環境づくりについて、公社および農協の方から勉強した後、わたくしたちは都会での職業と生活を離れ、研修をのぞけば、農業とは無縁の経歴で、菊栽培を生業にする二組の青年たちを訪ねました。いずれも子供たちを扶養する父親・母親で、子供を育てながら、10㌃の圃場を2年間経営しています。
経営を始めるのに3千万円ぐらいの初期投資が必要です。2250万―5百万円は、国および自治体(県・町)の資金援助(返済期間8年)でまかない、あとは(銀行貸付を含む)自己資金です。
日常の生活費に加えて、借金の返済、設備の維持費、収穫期の日雇い費用など経常的に発生する費用などを考えると、けっして楽だといえる仕事ではありません。それに言葉・社会習慣の違い、医療施設の遠さなど、定住を続けるのに解決しなければならない重要な負担があります。
「大地に根を下ろしていると感じられる自分のふるさとが欲しかった」「子供が育つのを見守れる職業と環境が必要だと思った」。都会生活を断念したそれぞれの夢と志がありました。しかし、新しい生活の始まりは悪戦苦闘です。目前の仕事に追われ、将来の設計など考える余裕がないというのが実情のようです。彼らはくじけるのでしょうか?
「妻と一緒に働かねばどうにもなりません」「次々と咲く花をぼんやり見つめるのが楽しみです」「昔に比べれば子供と遊ぶ時間があります」「子供が鹿児島弁を話すのですよ、驚きました」
奥さんからいただいた菊を部屋に飾り、その日耳にした言葉を思い起こしていました。
