世代超えたそれぞれの夏

6000ccに点火:No.28(2006/8)

「8月の光」

 あおばずくはとっぷり暮れると鳴きだす。ほ、ほほー…ほっ、ほほー。クラリネットかオーボエの音色で、最初の「ほほー」は尻上がり。2回目の「ほほー」は尻下がり。1回目と2回目で鳴く樹の位置が変わることもあります。また2回目の終わりが「ほっつ、ほっつ」になるときもありました。鳴きはじめるのはほぼ同じ時刻です。

風に吹かれてふと飯田蛇笏の句、「こくげんをたがへず夜々の青葉木?(あおばずく)」。

 落葉松(からまつ)の林沿いにひらけるりんごやとうもろこしの畑は、ネットで囲まれ、ネットの中には人間そっくりのかかしや色鮮やかな傘がおかれている。8月の陽光に、ほのかに色づき始めたりんごには似つかわしくないけれど、夏ごとに警備はきびしくなっていくようです。この時期(サルの食料の端境期)山から下りてくるサルの害を防ぐためです。

おとどしのこと、集落の畑の縁から急ぎ足でうっそうと茂る小径に踏み入ったとき、キャーッという鋭いサルの叫びに驚かされました。むこうにすれば突然の侵入者、小集団のボスは、歯をむき出し襲ってきます。小枝を振り回し小石を投げて、しだいに間隔を広げ「戦争」を避けることができました。林を歩く知恵を学びました。今年は、留守の山荘の屋根を、夕日のなか子ザルたちが歓声を上げながら滑り降りるのに出会っています。

 ある日、ジローという名のシェットランド犬を連れてよく林を散歩する婦人に、「サルにあったらジローはどうしていますか」と尋ねました。「べつに…(サルは)木に登ります」という返事です。

そうとすれば「犬猿の仲」、「犬猿もただならず」という表現はどういう状況からできたのだろう? その日はおそくまで、黒糖酒とオレンジジュースの「ダイキリ」を飲みながら、この問題で甲論乙駁ひとしきりの夕食になりました。

 兄はこの夏、米寿になります。復員後、父の亡くなった家族を支えて生きました。兄夫婦へのお祝いと感謝の気持ちから、落葉松の林でしばらく過ごしてもらうことにしました。

兄は「印度支那半島」を車で南下し、スマトラで敗戦を迎えます。わたくしの遠慮もあって戦争の悲惨さに触れるような話題は、これまで避けてきました。

北アルプスを一望する山道を兄の運転で楽しむ、これがわたくしのお祝いです。そしてあおばずくの夜々、兄の少年時代から敗戦までの歩みをはじめて聞かせてもらうつもりです。

息子も加わるといいます。敗戦の日、姶良の山村は灼熱の日差しで、ぎらぎら光るカヤの原に鬼百合が咲いていました。兄の8月は、夜のしじまにまもなく現れることでしょう。

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