こころ打つ卒業生のことば

6000ccに点火:No.24(2006/4)

「山謳う」

北宋の画家・郭煕(かくき)は四季にうつろう山のたたずまいを、「山眠る」「山笑う」「山粧(よそお)う」と表現しました。「山笑う」は枯れて眠るような冬の山が、芽吹き始める春の山のこころときめくにぎわい。山桜やこぶしの咲く風景を想像してもよいでしょう。これらのことばはいずれも俳句の季語になっています。
   今年の卒業式・入学式も桜の咲く「山笑う」丘のキャンパスで、ふたつの出発を祝いました。

   社会に旅立つ卒業生のことばにはいつも心を打たれます。今年の卒業生答辞は福祉社会学部児童学科の田中千奈さんでした。田中さんは念願の小学校教諭一種免許状を取得し、この春から初々しく教壇に立ちます。
   心を打たれたのは、自助・自立していく大学4年間の彼女の生き方です。4年前の入学式では、4年後この大学を卒業するとは思ってもいなかったと振り返っています。

   教師になる―幼いころからの夢を実現するために二度国立大学を受験しますが不合格になり、しかたなく本学に入学しました。
   年齢の違う学友たちとどうかかわるか、この大学でなにを目指せばよいか。憂うつと不安にさいなまれる1年を過ごしたようです。2年生になり、教員免許の取得を再びこころに決めて、免許に必要な授業に出席します。3年生のときは、さらにぎっしり詰まった授業と実習に励みます。
   「児童学科の1期生が県の教員採用試験に合格できた」と聞いて、教員になるという田中さんの決意はいっそう強くなりました。学友と楽しく生活できるようになったのもこのころからで、入学当初の不安、他の大学へ編入する気持ちは消えていったと語ります。

   1次試験の合格後、児童学科、実習センターの教職員の丁寧な指導、それまで以上に集中した試験準備をへて、彼女は最終試験に合格しました。合格は「先生、友人の力なしには」できなかったと述懐します。
   すばらしいことに、「友人の力」もあげています。自負や悩みをかかえこむのは若者の若者たるゆえんですが、そのこころの悩みを相互に共感して生きる力とすることもまた、若者たるゆえんだからです。

   桜が開くころから初夏にかけて、クスをはじめ照葉樹がまぶしく芽生え生い茂る森の風景には、いつもこころを動かされます。季語にはありませんが、「山謳(うた)う」といいたい光です。
   人生になぞらえると、大学生のころのまばゆさです。こうしてまた新学期が始まります。

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